生まれて初めてボルダリングを体験した話
こんにちは。MAmeeともうします。
最近体を鍛えたいと常に思っています。
でも、かつて陸上部に所属していたにもかかわらず走るのも筋トレも僕は嫌いで。
「なんか楽しく趣味程度にやっている間に体鍛えられているような気楽な感じの事がやりたい」
などと、ストイックにトレーニングに励んでいる方たちの反感を買うような甘い野望を持っています。
楽しそうで・走らなくて・全身を使いそうな運動
この3要素で僕なりに考えた結果――――――
「そうだ、ボルダリングやろう」
という答えを導き出しました。
思い立ってから最初の休日。
早速隣町にあるボルダリング教室的なところの門を叩きに出向きました。
「ここから僕の壁伝説が始まる…!」
と意気込んで現地に到着しましたが、目的地らしき場所にあるのは見た目普通の車庫。
シャッターがぴしゃっと閉まっていて、何か威圧感的なものを感じるほど閉鎖的な外観をしていました。
こんな威圧感のあるシャッターは農協の米蔵以来だった。(田舎者にしかわからない)
まぁ外観なんてどうでもいいだろう、と一瞬で気持ちを切り替えアルミのドアノブをひねり、いざと建物の中に入った。
中を見回すと思ったよりも広い空間で、まず目に飛び込んできた壁際には、ザ・ボルダリングって感じの大小様々なカラフルな石みたいなのが埋め込まれた壁があった。
部屋の右端から左側に行くにつれて難易度が上がっていくのが素人目にもわかる。
「一番左端ただの低めの天井じゃん…」
なんとなくスタローン主演映画の「クリフハンガー」を思い出した。
それと入口すぐ右側にある受付とボルダリングのエリアの境界線のように、バンドのようなものが壁の端から端にかけてあった。
……いや、すみません。
嘘ついてました。
中に入ってまず目に飛び込んできたのはボルダリングの壁じゃありませんでした。
僕が扉をくぐった先でまず目に入ったのはロッキングチェア。
ロッキングチェアとは「耳をすませば」のおじいちゃんとか、欧米でキャベツ畑とかやってて大型犬飼っているような渋めの人が座りがちなゆらゆら揺れる椅子だ。
ゆらゆらと心地よさそうに緩やかに揺れるそれには似つかわしくない「金色のドクロ」がひじ掛けの先端、手のひらを置く場所にくっついていた。
そして、金色にテラつくドクロにのせた指にはゴツゴツしたシルバー。
手首には数珠が二つ。
その手首から、身に着けたジャージのラインに沿って視線は上がっていき。
首には金のネックレス、なぜかピアスだけ宝石をあしらった女性的なもので、口周りは髭がなく小奇麗、その顔と髪型は芸能人の坂上忍似。
僕の中にあるロッキングチェア乗務員像とは程遠かった。
要するにガラの悪い謎のお兄さんが入口付近で金色のドクロが付いたロッキングチェアをぎっしぎっしいわせていた。
「怖ぇぇ~し濃ぇぇ~」
まず見た目から入る僕は目の前の謎のお兄さんの存在を無かったことにしようとするほど完全に委縮してしまった。
周りをよく見ると、僕と謎のお兄さん以外人がいなくタイマンというのも相まって、かなりの緊張状態にあった。
係の人とかいないんか?と思い受付カウンターの後ろ側のドアやらなにやらをそわそわしながら観察していると。
「会員の方?」
と、ドクロッ金グチェア兄さんが声をかけてきた。
ひょうひょうとした感じの声まで坂上忍的だった。
「あ、ちょっと初めてで……」
(常連のひとなのか……?)
ビビってた僕は、目も合わせず半身でそんな返事をした。
するとドクロッ金グチェア兄さんはおもむろに立ち上がり、僕はHigh&Law的な何かが始まりそうな予感がして身構えた。
「ボルダリング自体は初めてで?」
「あ、はい。経験は無いです」
「そうなんですか。初めての方が来るのは中々珍しいですねぇ。」
僕のボルダリング遍歴を聞きながらドクロッ金グチェア兄さんは受付カウンターの方に回り込み、普通のパイプ椅子に腰かけ。
「では、初めてのご利用ということでこちらの方にいくつか記入していただく箇所がございます。」
普通にこの施設の主だった。
見た目に反して丁寧な口調に少し緊張がほぐれ、自分の早計を恥じつつ書類に目を通す。
金のドクロの印象が強いので悪魔の契約書みたいな内容かと思ったが、利用に伴う色々な自責他責やら、まぁ普通の書類だった。
書類に筆を滑らせながら。
ここに来るたびに顔を合わせるのだろうから一歩踏み込んでコミュニケーションを図ろう、というのは建前で気になって仕方がないドクロッ金グチェアについて聞いてみた。
「あの椅子、かなり前衛的な見た目ですね。奇抜というか禍々しいというか。」
今にして、もっといい切り出し方は無かったのかと思うがドクロッ金グチェア兄さんは気を悪くした様子もなく。
「これ、俺のこだわりなんですよ。」
と、それから聞いてもないのに部分的に金属部品を付けてるだ、箇所によって木の材質が違うだ、確かにこだわりを感じる様子で語ってくれた。
「俺はね、『快適に寝ること』に命かけてるからね
。この椅子に揺られてるともうコロリだよね。」
そういいながら、話の間にいつの間にか奥さんらしき人が出してくれたブラック缶コーヒーに口を付けた。
あ。なんかいい人。
と思いつつ。
(そんなにカフェイン摂ったら睡眠の妨げになるんじゃ……あと、ドクロの理由を聞いてないし、座るとコロリなら仕事中は止した方がいいんじゃ……)
なんて言葉がのどまででかかったけど何とか飲み込んだ。
そんなこんなあって書類の記入が終わり、ついに一時間程のボルダリング体験へと移った。
まずお兄さんがボルダリングの基本的なルールを説明してくれた。
細かい用語はぶっちゃけ聞いてなかったので要約すると課題みたいなコースがあって、ルート通りに手足をかけ登っていくのが基本なんだそうな。
なんかもう、好き勝手登っていいものだと思っていた僕は後出しされたみたいな気がして少しテンションが下がってしまった。
次に、専用のシューズを貸し出された。
これがめちゃくちゃタイト。
ねじ込み切れないほどタイト。
ドラゴンボールの悟空とかが履いてる先がすぼみがちなやつを、めちゃくちゃギュってした感じの履き心地。
締め付けられすぎて足の指が親指だけになったような感覚。
予期せぬ拘束感に僕のテンションはさらに下がった。
とりあえずやってみようかということで、滑り止めの石灰を手にまぶし、なんとなく密かに竜田揚げが食べたくなりながら半ばやけくそに初心者用の壁面にとびかかった。
足をかけてみると確かに、少しの出っ張りに足の指先をかけるにはこの締め付けられたつま先がうまく食ってくれる感じがした。
けどぶっちゃけシューズのサポートなんて気休めにもならなかった。
いや、ボルダリングをやるにあたってのフィジカルが僕には皆無だったんだろう。
身軽さには多少自信があったが、その程度じゃ課題をクリアすることはできなかった。
片足を次の出っ張りへ延ばした状態で、体は斜めになり、置き去りにされた足はつま先で体を支え、右手は遥か上にある次の出っ張りをつかもうと必死になっている。
「手と足だけじゃその体勢からは浮けないよ~。肩と太ももも一緒にバネにしないと~。」
お兄さんがそれっぽいアドバイスをくれるが、何を言っているのかわからなかった。
わかるにはわかるが、それは目的に対してフィジカルが仕上がっている人が実現できるアドバイスだろう。
心の中で自分の準備不足を棚上げにしながら2メートル下に背中から落下した。
もちろん下には柔らかいマットが敷いてあって無傷で済んだが、マットに薄く積もった石灰が舞い上がり非常に不快な思いをした。
乾燥がキライな僕はダメ押しでテンションを下げられた。
その後の40分位を簡潔にまとめると。
よじよじ
ビター――ン!!!
小休止
上記のサイクルを×14
全身石灰だらけで、喉もカラッカラ。
息も絶え絶えに、ぶっちゃけいうともう壁に飽きてしまった。
というか嫌気がさした。
ドクロッ金グチェアお兄さんは終始お気に入りのロッキングチェアをギッシギッシしていた。
何なら寝てた。
残り10分ほどになって壁から逃げるように、残り時間をつぶすためお兄さんに声をかけてみる。
「いや、ボルダリングむずかしいですねぇ~、思ったより。」
「初日は大体そういうものだよ。基礎的な能力を鍛えていかなきゃね。」
フォローするようにいうとお兄さんは立ち上がり、冒頭でいっていた境界線のようなピンと張ったベルトに近づいていき、手慣れた様子で跳び乗った。
「何してんすかそれ!?」
「これ、スラックラインっていう、うちではトレーニング用に使ってる。」
伝わりにくいが一応こんなんだ↓
聞いたことはあったが見たことがなかったのでただの境界線かと思っていた。
「こういう体幹とか鍛えるのが、大事。」
そういいながら細いベルトの上で足をグワングワンさせたり、ぴょんぴょん跳ねたり、跳ねたかと思えばうつ伏せにベルトに着地して反動で元の体勢に戻ったり。
未知の動きを生で見た僕には、今日一でお兄さんが輝いて見えた。
てか、この人がボルダリングしているのを見せてもらっていない。
お手本ぐらい見せてほしかったもんだ。
「やってみる?」
「じゃぁ……」
この体験も簡潔にまとめよう。
ガクブルガクブル
ぽいーん
\どすっ/
そこでついに僕の心は折れてしまった。
制限時間を終え、なんとか良心を振り絞りお兄さんにこう伝えた。
「いや~、体が全然ついていかなかったな~。でも普段使わないところまで使えたような気がしていい汗かけました!ありゃっした!」
僕のハリボテのスポーツマンシップに気を良くしたのか、
「あっはっは!楽しいでしょう?結構ルートの構想とか頭も使うんですよ。」
そういいながらチラシのようなものを差し出してきた。
「室内だけじゃなくて、野外のクライミングも活発的にうちはやってるんでね!ぜひ一緒に楽しみましょう!」
今日一の力強い発声でのお誘いに、僕は愛想笑いするしかなかった。
チラシには突起の乏しい岩肌を命綱無しで登っているお兄さん写っていた。
思った以上の壁登りガチ勢の巣窟だった。
自分の認識の甘さと、運動不足を悔やみながら。
(スポーツ競技には真摯な気持ちで向かい合おう……あと事前の準備をきちんとしよう……)
そんなことを思い、施設を後にした。
その後一度もボルダリングにはいっていないが、友人がやってみたいとこぼした時。
「楽なもんじゃないよ。内容を理解して、自分のレベルにあった場所。それが大事。」
と先輩風を吹かせている。
そしてテレビでボルダリングを見るたびに思い出す。
金のドクロの装飾を施したこだわりのロッキングチェアに腰かけ、睡眠に命をささげる坂上忍似のお兄さん。
ドクロッ金グチェアお兄さんを。